2024/05/24 14:36

ある村に、書道の達人である老人、岩田先生が住んでいました。彼は若い頃から筆を握り、書の道を極めてきた人物で、その技術は村中に知られていました。毎年の祭りでは、岩田先生の書いた大きな掛け軸が飾られ、その美しい文字は見る者の心を打ちました。

しかし、岩田先生には一つだけ心残りがありました。それは、彼の弟子がいないことでした。若者たちは都会に憧れ、書道の道を志す者はほとんどいなくなってしまったのです。

そんなある日、村に一人の少年がやって来ました。名前は信也と言い、都会から引っ越してきたばかりでした。信也は絵を描くのが好きで、学校の授業でも美術の成績が良かったのですが、書道には興味がありませんでした。彼にとって、書道はただの文字を書くことに過ぎなかったのです。

ある日、信也は村の神社で行われる祭りの準備を手伝っていました。そこで、岩田先生の掛け軸を初めて目にしました。信也はその掛け軸の美しさに心を奪われました。筆の動きが生きているかのようで、一つ一つの文字に力強さと優雅さが宿っていたのです。

「こんなに美しい文字を書ける人がいるなんて……」

信也は感動し、すぐに岩田先生の家を訪ねました。そこで、信也は自分の思いを伝え、書道を教えてほしいと頼みました。岩田先生は信也の目の中に輝く情熱を見て、快く受け入れました。

それから信也は毎日、岩田先生のもとで書道を学びました。最初はうまく書けず、何度も何度も失敗しましたが、岩田先生は決して怒らず、丁寧に指導しました。「文字は心を映す鏡だ。心を込めて書けば、必ず美しい文字になる」と先生は言いました。

時間が経つにつれ、信也の技術は着実に上達していきました。そして、ついに祭りの日がやって来ました。今年は信也が書いた掛け軸が飾られることになりました。村の人々はその文字を見て驚きました。まるで岩田先生が書いたかのような美しい文字だったのです。

「信也、よく頑張ったな」と岩田先生は微笑みました。

「先生のおかげです。これからももっと精進します」と信也は答えました。

信也の掛け軸は村の誇りとなり、彼の名は次第に広まっていきました。都会からも書道を学びに来る人々が増え、村は再び書道の中心地として栄えるようになりました。

岩田先生は静かに微笑みながら、信也の成長を見守り続けました。そして、信也はいつの日か、先生の教えを受け継ぎ、次の世代に伝えていくことを誓いました。

書道の心は、信也によって未来へと受け継がれていくのでした。